青春時代

もしこの時純子が俺の申し入れを
嘲笑って断っていたら、俺は相当
落ち込んでいたに違い無い。

今の 俺と違い、中学1年だった
俺は、当たり前だが恋愛に対して
免疫など皆無であったからだ。

純子は俺を見ていた。俺の顔を。
そして差しだしたその財布を。

しばらく間があって「いいよ。」
彼女がそう言ってくれた。

その瞬間、俺は気持ちが高揚し
何とも言えない幸せを感じた。

天にも昇る思いという言葉があるが
この時まさにそんな気持ちであった。

「何がいい?」

純子が俺に買って欲しいものを尋ねた。

この時俺は実に不思議な気持ちに
なったのだ。

それは、純子に対し所有権を得た
ような、そんな気持ちになれたからだ。

今思い返してみると本当に笑える。

たかが、パンを買って貰えるだけで
純子が自分の物になったような
嬉しさがあったからだ。

それはバカバカしいという意味では
無く、甘酸っぱい良き青春の思い出
としてである。

「純子に任せるよ。」

「何か2つ買ってきて。」

俺はそれだけ言うと自分の席に
戻った。

いや、そう答えるのが精一杯だった。

そんな言葉でさえ喉から絞り出した
ほどだ。緊張のあまり。

純子が俺の為に売店に買い出しに行く。

そう思うと、その後の授業なんて
全く耳に入らなかった。

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