青春時代
徳子(のりこ) と2人でじっと
櫓の回りを踊る盆踊りを見ていた。
ただ、それだけで幸せだった。
彼女の横顔を時折盗み見た。
「なんて美しいんだ。」
それが正直な感想だった。
美術の時間に沢山の名画と呼ばれる
写真を教科書で見たが
彼女のこの時の横顔に勝る物は
無かったと思う。
祭りの喧噪の中で佇(ただず)む
浴衣姿の女の横顔の美しさ。
まだ青い中学生だった俺の脳裏に
強烈な印象を残してくれた。
祭りが開催されている広場には
沢山の電球が吊り下げられている。
その光に、夜の暗いシャドーが
重なり合い、彼女の顔を浮かび
上がらせていた。
光と影のコントラスト。
シャドーは女の顔を妖艶に見せる。
女が自分の横にいるだけで、こんな
にも幸せな気持ちになれるのか。
俺はこの時そんな気持ちを持てる
事を初めて知った。
俺にとって男が女を求める気持ち。
どこが原点であったかと言うと
多分この時だと思う。
何とも説明のつかない安らぎが
俺の心に訪れた。
今でもはっきりと覚えている。
太鼓の音や盆踊りの音楽、はたまた
沢山の人々の喧噪。
耳からはそんな多くの音が聞こえて
きたが、俺の心は静まり返っていた。
俺はこの時、徳子の事が好きになって
しまったようだ。
彼女が愛おしい。
彼女の横顔を見て、そんな気持ちが
込み上げてきた。
浴衣を着た彼女は細い肩であった。
まるでガラス細工の人形のように
誰かに守ってもらわなければ
壊れてしまうかも知れない。
そんな風に思えた。
そしてそれを守るのが男。
俺は少しづつだが、男とは何かを
この頃から学び始めていた。
大人になるにつれ愛する人を守って
やりたい。そんな気持が自然と
沸いてくる。
不思議だ。
自然界から与えられた男の心得。
大人になるにつれ、誰に教えられる
訳でも無く身に付くなんて
本当に不思議だ。
そして逆に、女はきっと
「誰かに守られたい」
そう思い出すのだろう、大人に
なるに連れて。
なので、男と女は惹かれ合うように
なる。
自然界が人に与えた愛するという
法則。
この上無く、興味深い・・・。
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