青春時代

「私の家の電話番号」

ひとみからもらった手紙には
こんな言葉と共に無機質な数字が
並べられていた。

しかし、そんな数字が時には恋の
キューピットに変わるのが電話の
魔法である。

数字を回せばレディと会話出来る。

それもまるですぐそばにいるかの
ようにだ。 

俺はその手紙を閉じた。

そしてひとみが何を期待している
のかを考えた。

俺に自分の胸の内を告白して
それで満足だったのか?

いや、それなら何故電話番号など
書いていたのだろう?

帰り支度を終え帰宅への道、まだまだ
恋愛道の経験の浅い俺はそんな事を
漠然と考えながら歩いていた。

家に帰り、棚に置かれている電話を
チラッと見た。

今思うと全く可愛げの無いデザイン
だ。

それにどこの家庭も電話が普及
し始めた頃は皆同じ物であった
と思う。

黒いその糸電話が進化したものは
俺に何かを問いかけていた。

「彼女に電話しなくていいのか?」

そんな風にだ。

俺は気づいていた。

ひとみが何故自分の電話番号を書いて
いたのかを・・・。

それは密かに俺の電話を期待している
からに違い無かった。

そうで無いとそんなものは書かない。

電話してみようか?

そう思いだすと、突然ドキドキして
きた。

女に電話などした事が無いからだ。

何て話せばいいのだろう?
電話して相手の親が出たらどうしよう。

そんなマイナス思考ばかりが先に立ち
俺は怖気づいてしまった。

たかが電話ごときに、まだ中学3年生
だった俺はダイヤルを回す勇気が
無かったのだ。

今の時代が羨ましい。

今なら俺は直ぐに相手に電話をして
いただろう。

いや、気に入った女と直ぐにLINE
交換しまくっていたに違いない。

何故今の時代なんだ!

何故俺が学生の時にネットやスマホが
普及しなかったんだ!

時代の進化の遅さを恨む・・・。


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