青春時代
夕方少し前、家に誰もいない時を狙い
電話する事にした。
この時まで俺は、ほとんど電話など
した事が無かった。
電話が我が家にやって来た当日
母親が喜んで親戚に電話し、その
場で少し代わったぐらいだ。
それ以降電話は我が家の飾り物的
存在のままだった。
黒光りする電話機の前に立った。
ひとみも春休みで家に居る筈だ。
そしてこの時間なら相手の父親も
いないだろう。
笑えるかも知れないが、女の家に
電話する時、1番怖かったのが
相手の父親だった。
やはり男同士は生まれながらに
敵対心のようなものがあるのか?
相手の父親からすれば
「うちの娘に何の用だ!」
そんな気持ちなのだろう。
例え娘でも、女という存在は自分で
囲い、外敵(他の男)から守ろうと
するのが男の本能のようだ。
息子なら全く気にもしないのだから。
時に女に電話すると、悪い虫が付か
ないよう追い払うような口調で
相手の父親から電話を切られた事
もあった。
しかし、そう言うあんたも自分の嫁と
結婚する前にちょっかい出して手に
入れたのだろう。
俺は相手の父親にそう言ってやり
たかった。
この頃、電話で女と話す障壁は相手
の父親だった。
今の若い世代は羨ましい。スマホで
直接自分の彼女と電話出来るのだから。
おまけにライン電話なら無料だ。
俺の頃は電話料金も高かった為、彼女
と長電話などすれば、電話料金の事で
今度は母親の雷が落ちた。
電話には相手側とこちら側の両方に
やっかい者がいたものだ。
俺は覚悟を決めた。
手紙に書かれた番号をゆっくりと
回し始める。
ダイヤルを回す指が緊張して固く
なっている事が分かった。
初めて電話を掛ける瞬間である。
一つの数字を回すとジーという音と
がしてダイヤルが一旦元の位置に
戻る。
全ての番号を回し終えると、何やら
電話の向こうでジジジという回線を
接続するような音が聞こえた。
しばらくすると相手を呼び出して
いるようで、俺はいよいよかと
気持ちが高ぶった。
「はい、小西です。」
相手が出た。その声を聞いた時
俺は全身の力が抜けた。
何故なら、その声はひとみであった
からだ。
相手の親が出たらどうしよう。
そう思い、自分で思いつく限りの
丁寧な言葉でひとみに代わって貰える
よう言葉を準備していたが
取り越し苦労であった。
俺はホッとしてひとみに話出した。
女への初めての電話。
この時のシーンは今でも鮮明に
覚えている。
恋愛カップルにクリックを!
