青春時代
「ひとみ?」
ホッとして彼女の名を呼んでみた。
「M君?」
少し驚いたような反応でひとみが
返してきた。
「うん、電話してみた。」
そう言うと
「ありがとう。」
ひとみの嬉しそうな顔が声からも
伝ってきた。
電話ってすごいや。
本当にこの時そう思った。
まるで本人が横にいるようだからだ。
それに声もひとみそのままだった。
それから俺達は少しの間、学校での
思い出を話し合った。
そして俺は用意していた言葉を
言ったのだ。
「ひとみ、一緒に映画を観に
行かない?」
俺が女をデートに誘った初めての
瞬間であった。
彼女の返事を待つ間、鼓動の高まり
を覚える。
「いいよ。いつ?」
ひとみが嬉しそうに答えてくれた。
「今度の日曜日はどう?」
そう聞くと
「大丈夫」
彼女はすぐさまOKしてくれた。
待ち合わせの場所と時間を決め
俺は電話をきった。
俺はこの時、初めての航海を迎える
船乗りの気分であったように思える。
まだ見ぬ大海への初めての航海。
不安と期待が交錯した。
1人で繁華街に行った事も無い俺が
女を連れて映画を観に行く。
今のようにネットで何でも検索すれば
出てくる時代では無かった。
映画も何処で何を何時から、やって
いるのかも分からない。
なのでその後も映画を観に行くと
既に始まっていたりして、途中から
観てオチを知ってから、次の上映を
最初から観たりした。
デートなんてどうすればいいんだ?
よく分からない。
俺はこの時まで喫茶店にも入った
事が無かったのだ。
驚く事に喫茶店に入る事は校則で
禁止されていた。
今で言うならスタバやドトールに
入るのが校則で禁止されている
ようなものだ。
もし、見つかったら補導されていた。
そう考えると滅茶苦茶な校則で
あった。
なので、デートというものに対し
何の知識も無いしマニュアル何てのも
無いし聞く相手もいない。
無い・無いづくしの出たとこ勝負だ。
俺はデートコース何てのが全く
分からずだったが、心配などより
初めてのデートへの期待の方が
上まわっていた。
しかし女の扱いに不慣れだった
俺は、この初デートで手痛い経験を
する羽目になってしまう。
何でも経験だ。
大人になるまで多くの経験と失敗を
重ねたが、このデートが初の大きな
失敗デートになる。
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