覚醒タイランド
ポーにはその後、毎月会いに行き
会う度に彼女にのめり込んでいった。
まさにポーが自分の女のように
思えていた。今思い出すとタイ
デビューの思い出は感慨深い物がある。
一度、彼女の住むアパートまで
タクシーで送った事がある。
スクンビットにある低層の質素な
アパートだった。ただ、彼女はこの
アパートが嫌いだと言った。
その理由はそこに住んでいるインド
人達が彼女に会う度、ハウマッチ・
ハウマッチと声を掛けてくるからだと。
隠微な笑みを浮かべ彼女を舐めまわす
ように見るそうだ。
なんて失礼なんだ!
まるで自分の彼女が馬鹿にされた
ように感じたが、悲しいかなそれが
ポーの社会的な位置づけだ。
派手目な化粧。露出の多い服。
男なら一目で分かる夜に生息する女
の匂い。
そんな彼女はこのように時には
遠慮が無い、男の言葉や視線で
蔑(さげす)んだりされるようだ。
その話を聞いた時、その男達に
怒りを覚えたが、何の事は無い
そんな自分も海の向こうの日本から
遥々(はるばる)彼女を買いに来てる。
単なる目くそ鼻くその違いであろう。
下手をすれば俺の方が彼女を蔑んで
るのかも知れない。金で体を開かせて
いるのだから。
ただこの時はポーにのめり込んでいた
俺にはそれが分からなかった。
引っ越ししたい。
彼女がそう言ったので
「引っ越しすれば?」
そう言うと
「オカネ ナイ。」
彼女が悲しそうに言った。
何時もそんな嫌な目に会っている
彼女を不憫に思い
「俺が出してやるよ。」
そう言うと彼女は驚いて俺を見た。
「いいよ。いくら必要?」
彼女は「ホント?」
そう聞くので、ポーに嫌がらせする
男達から離してやりたいんだよ。
そう説明した。
「アリガトウ。」
小さな声で彼女は日本語でお礼を言って
くれた。
引っ越しに2万バーツ必要だと言うので
俺は彼女にその金額を渡してやった。
しかし俺はこの時まだまだタイの夜嬢の
本質を知らない甘チャンだった。
彼女達は疑似恋愛のドラマを作る
まさしく台本家兼、女優業なのだ。
自分にとって可哀想な話を作りあげ
相手から金を引き出すのもまた
彼女達の台詞の1つなのだから。
俺はまんまと彼女の台本通りの動きを
させられたようだった。
何故ならその後、本人はもとより
回りからも彼女が引っ越した話など
聞かなかったからだ。
「かわいそう。」
そんな言葉は実は夜嬢には無用なの
かも・・・。
俺の事を「バカだな上手く乗せられ
て」と笑っているドライな友人達が
実は正解なのかも知れない。
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