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青春編

店長に会いに行ったついでに
秀美にそっと声を掛けた。

「ねぇ、今度飲みに行かない?」

この時点で既に秀美とは笑顔で
話せるようにはなっていた。

なので、ここからが勝負だと思って
いた。

ところが・・・・。

「えーだめ。」

この返事に俺は「まさか!」そう
思った。絶対に誘いに乗ってくる
と踏んでいたからだ。

「え~何で?」

そう聞くと

「彼氏いる。」

やられた~。

そうか。彼氏がいたのか・・・。

考えてみれば、当たり前かも知れない。
彼女は学生のバイトでデパ地下に
こもっている訳では無かった。

デパ地下ガール達はほとんど出会いが
無いが、反面バイトの秀美は外で色々
な出会いがある筈だった。

俺はうぬぼれていた。
秀美も直ぐに落とせるだろうと。

調子に乗り過ぎて、肝心の事を聞き
逃していた。

この時代彼氏がいる女は中々ガード
が固かった。いわゆる彼氏一筋系が
多かったからだ。

今のようにSNSで経験人数発表
しま~す。なんてあり得ない時代
だった。

そんな訳で彼氏のいる女を口説く
にはかなりハードルが高った。

好きになると一途。これが昭和の
女性達のある意味キーワードでも
あったのではないだろうか。

私の好きだった、やしきたかじん
のヒット曲にもこの
「一途(ICHIZU)」という曲がある。

大好きな曲だ。

歌は世相を表すというが、この曲の
歌詞にはまさに昭和の女性達の顔が
ある。

やしきたかじん「ICHIZU」

やしきたかじんの歌は大好きだ。
彼の歌は昭和の大人の恋愛を表す
代表的なラブソングではないだろうか?

秀美に彼氏がいる事を知り、俺は彼女
にそれ以上誘いを掛けるのは止めにした。

彼氏がいる相手を横取りしてまで、自分
のものにしたいとは思わなかったからだ。

何というか当時は自分の中で「紳士協定」
のようなものがあり、人の女には
ちょっかいを掛けない。

そう決めていた。
なので、ひとまず秀美は諦めた。

ただ、挨拶や軽い会話だけはしていた。
それだけでも俺は秀美と触れ合える事が
嬉しかったからだ。

そしてしばらくしたある日、シゲル店長
と昼めしを食べに行った時、彼がこう
言った

「M、うちのバイトの秀美好きなんやろ。」

「うん、でも断られたわ。彼氏おんねん。」

「あのな、ええ事教えたろか。」

「なんや?」

「あいつ、振られよったで。」

「うっそー!ほんまかー?!」

「ああ、ほんまや。」

「おおー!」

「この間な、売り場で元気無いから
 理由聞いたんや。」

「ほな、あいつ振られたゆうとったで。」


「店長ありがとうー!」

秀美には大変申し訳無いが素晴らしい
情報だった。

俺はこの情報にほくそ笑んだ。

何故なら失恋した女は、遊園地の猿山で
学習し、落としやすい事を知っていた
からだ・・・。

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