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青春編

「私、印鑑の会社に就職したの。」

彼女が短大を卒業して就職したと
聞いていたが、まさか印鑑の会社
だとは・・・。

「営業担当なんだけど、始めたばか
 りなので、知り合いなら話やすい
 からと思って電話したの。」

彼女がそう言うと隣の上司とかいう
男が突然話だした。

「彼女は営業で入社したので、知り
 合いから営業してみろと。」

「うちは象牙の印鑑で他に無い素晴
 らしい印鑑を扱ってるんや。」

営業だと言った割には男はタメ口
なのでなんだこいつは?と思った。

俺はよく見た目で舐められる。
なので、ちょっと脅せば買うとでも
思われたのだろう。

「ほらこの印鑑見てみい、凄いやろ
 これ以上の物があったら持って
 来いと言いたいわ。」

印鑑を取り出し、俺にこれ見よが
しに見せた。営業と言うよりも
巻き舌トークで威圧を掛けてきた。

この上司とやらの横柄な態度に
俺の
マグマがせりあがってきた。

これは丁度昭和50年代に問題に
なった電話での呼び出し販売で
あ。

マルチ商法とも呼ばれて多くの
若者が引っ掛かり問題になった。

当時自由に売買されていた学生
名簿の男達に若い女性の声で
電話をさせ

是非1度会って話を聞いて欲しい
と勧誘し約束を取り付ける。

若い女からの電話に釣られて行くと
そこにはその女と強面の営業マン
あるいは女はいなくて営業だけが
待ち構え

半分脅しのような口調で高額な
象牙の印鑑など、怪しげな高額
品を売りつけていた。

その上司は一通り印鑑の説明を
するといきなりこんな事を言い
出した。

「俺は少林寺の黒帯でパンチ力
 が凄いんや。」

「ゲームセンターのパンチグボール 
 殴ったら機械壊れそうになったわ。」

「あんた少林寺拳法って知ってるか?」

男は自分の拳を片方の手で撫ぜながら
のけぞるように俺に威圧をかけてきた。

しかし、俺はそんな男の言葉に笑い
そうになった。何故なら俺は高校時代
既に少林寺拳法の黒帯を取り、その後
極真空手の道場に通っていたからだ。

男の言葉に

「へー凄いね。」

「俺は極真の道場に通ってるんやわ。」

そう言うと、突然
男は気まずそうな顔
なった。何故なら当時空手バカ一代
というマンガ本が爆発的人気で極真は
喧嘩空手だと有名だったからだ。

格闘技をやっている人間なら誰もが
それを知っていたと思う。

実際
当時の極真の道場の組手はまるで
喧嘩のようで、怪我人が続出していた。

俺も骨折の数知れず、網膜剝離寸前や
救急車に乗せられ病院に送られた事も
あった。

そんな道場で俺は諦めず極真の黒帯
までたどり着いた。

極真の道場には喧嘩自慢がよく入門
してきたが、半殺しの目に会い皆
退会していった。

多分目の前にいるこの男も道場に
入門すれば、その横柄な態度で
血祭りは明白だった。

「パンチ自信あるんやろ。うちの
 道場来てあんた入門しろよ。」

「俺が紹介してやるから。」

すると男はさっきの威勢は消え

「いや、俺もう仕事してるし。」

そう言って黙ってしまった。
秀美も場の流れが悪いと思ったのか
黙っていた。

「なんや、気分悪いな俺帰るぞ。」
「金は払わんからな。」

自分の飲んだコーヒーの金など
更々払う気など無かった。俺は
その男にもムカついたがそれ以上
に秀美に腹が立った。

こんなマルチ商法のターゲットに
俺を選んだからだ。俺がもし気が
弱い人間ならその印鑑を買わされて
いたかも知れない。

それで自分の成績が上がり、喜べる
と思った秀美の気持ちが1番ムカ
ついた。

ワンナイトの秀美、がっかりだ。
よりによって最悪の就職先に入った
ものだ。

それ以降彼女からの連絡は全く無く
噂では、しばらくしてその会社を
辞めたような事を聞いた。

マルチ商法、記憶にある人も多い
だろう。

その中でも悪名高い「豊田商事」
が世間を震撼させ、なんとその
社長がマスコミの目の前で殺害
されるという事件にまで発展した。

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